イヌリン(Inulin)は、キクイモやごぼう、ヤーコンなどに含まれる、食物繊維の一種です。
唾液や膵液で消化されず、大腸の腸内細菌によって初めて代謝されます。
血糖値を上げないので、糖尿病に有効な食事療法として期待されています。
この記事では、イヌリンのダイエット、腸活、糖尿病への効果や、イヌリンの副作用、多く含む食べ物について解説します。
目次
イヌリンとは?生化学でみる特徴
イヌリンは、ブドウ糖(グルコース)に、果糖(フルクトース)が連続して繋がったフルクトースの重合体(フルクタン)です。分解されると、フラクトオリゴ糖となります。
摂取されたイヌリンは、糖鎖の長さに応じて,腸内における発酵の割合違いがあります。[1]
イヌリンの消化経路
ヒトはイヌリンを分解する酵素を持たず、大腸の腸内細菌によって初めて代謝されます。
腎臓で完全に濾過されるため、血中のイヌリンは全て尿として排出されます。
この性質を利用して、腎臓が血液を濾過する能力の測定に使われることもあります。(イヌリンクリアランス)
イヌリンの合成方法
イヌリンは、近年まで自然界から精製することでしか得ることはできませんでした。
しかし、2003年にフジ日本精糖によって、世界で初めて産業的に砂糖から作り出すことに成功しました。[2]
この手法は、バチルス菌由来の酵素によってイヌリンを合成するというものです。
この合成方法によって、糖鎖の長さの揃ったイヌリンを得ることが可能になり、今では多くの食品に利用されています。
イヌリンの効果
腸内環境を整える
イヌリンは分解されるとオリゴ糖となり、腸内でビフィズス菌や乳酸菌などの善玉菌のエサになります。
イヌリンはプレバイオティクスとしても知られており、ヨーグルトなどと一緒に摂取すると効果的です。
善玉菌がオリゴ糖から作り出した短鎖脂肪酸は、ミネラルの吸収を促す嬉しい効果があります。
カルシウムやマグネシウム吸収を促進し、腸におけるバクテリアの活動を増進させ、腸内環境を整える効果が報告されています。
血糖値の改善
イヌリンは糖質や塩分の吸収を抑える効果があるため、「天然のインスリン」とも呼ばれています。
糖尿病だけでなく、血糖値の異常に関する病気に対して、有効な食事療法の手段として期待されています。
イヌリンの消化吸収
イヌリンは構造上はブドウ糖(グルコース)を含んでいますが、デンプンを消化するために分泌されるアミラーゼという酵素によって消化されないため、栄養成分表示では糖質ではなく食物繊維として扱われます。
通常の消化過程ではイヌリンが単糖類にまで分解されることはないので、その摂取により血糖値が上昇することはありません。
食後の血糖値の上昇を表す指標としてGI値が使われていますが、イヌリンのGI値は1程度です。
(GI値70以上が高GI食品、56~69が中GI食品、55以下が低GI食品)
糖尿病患者の血糖値を調節する報告結果
イヌリンが血糖値に直接的に作用することはありませんが、腸内細菌がイヌリンを分解した時に生み出す物質がインスリン感受性を向上させるため、糖尿病患者の血糖値を調節することが報告されています。[3]
太りにくい・ダイエット
イヌリンは、主にブドウ糖によって構成されていますが、消化の過程でブドウ糖にまで分解されることはありません。
エネルギー量は砂糖の1/4から1/3程度、脂肪の1/6から2/9程度しかなく、低カロリー食品として利用されています。
中性脂肪の蓄積を抑制したり、ダイエットやアンチエイジング効果も期待されています。
なお、イヌリンは腸内で発酵されとガスが発生し、腹部に膨満感が出ることがあります。
イヌリンの副作用や摂取量
イヌリンは、摂り過ぎるとお腹が緩くなったり、胃腸にガスがたまって膨満感を感じたりすることもあるといわれています。
イヌリンの1日の推奨摂取量は、5〜10gとされていますが、1日に最大40g、またはそれ以上摂取可能だという意見もあります。
まず少量を試して様子を見てから、摂取量を増やすと良いでしょう。
また、稀にイヌリンに対してアレルギー反応を示す人もいます。
アレルギー症状が現れた場合は、すぐに摂取を中止し、医師に相談してください。
イヌリンを多く含む食べ物
イヌリンはキクイモのほかに、ごぼうやヤーコン、タンポポの根、チコリの根、アーティチョークなどに含まれています。
菊芋やヤーコンは一般的にあまり市場に出回っていないので、近所のスーパーや道の駅で見つからなかった場合は、ネット通販から購入することができます。
イヌリンの味
単体のイヌリンは、ほんのりとした甘さがあります。
イヌリンはパウダーなどで販売されていますが、料理に入れても味が変わるほどの甘さはありません。
イヌリンの使い方
イヌリンは、パウダータイプならスムージーやヨーグルト、スープなどに混ぜると使いやすいのでおすすめです。
菊芋が手に入るのであれば、菊芋チップスや、サラダ、酢漬けにして食べると美味しくいただけます。
また、イヌリンをより効果的に食べるためには、ヨーグルトや乳酸菌飲料も併せて摂るのがおすすめです。
ヨーグルトなどに含まれる乳酸菌やビフィズス菌は、腸の調子を整える善玉菌ですが、イヌリンを分解したオリゴ糖をエサとします。
イヌリンを含む菊芋を、ヨーグルトを一緒に摂取することで、善玉菌と善玉菌のエサを併せて摂取することができます。(シンバイオティクス)
参考文献
[1]Raw potato starch and short-chain fructo-oligosaccharides affect the composition and metabolic activity of rat intestinal microbiota differently depending on the caecocolonic segment involved
[2]イヌリン フジ日本精糖株式会社
[3]Effects of high performance inulin supplementation on glycemic control and antioxidant status in women with type 2 diabetes
[4]イヌリン - Wikipedia